溝口敦の仕事
   

溝口敦の斬り込み時評 No.531(2026年6月22日)
窮状の暴力団組長にはどだい無理な使用者責任

 大阪地裁で特殊詐欺による被害者4人が山口組の司忍組長らに計6000万円の支払いを求める訴訟が進められているという(産経6月19日)。

 被害者らは2022年、役所職員などを名乗る人物から「還付金を受け取ることができる」「アプリやウェブサイトの未払い料金がある」などと言われ、計約4300万円を振り込まされ、詐取されたらしい。

 暴力団対策法や民法には「使用者責任」の規定があり、下で使われる立場の人間が経済的な不始末を侵せば、上に立つ人間が賠償責任を負わなければならない。

 暴力団とて同じなのだが、今やその暴力団組長なり若頭に賠償をまかなえるほどのカネがあるかが問題になる。

 司忍組長や弘道会の竹内照明総裁、野内正博会長ならば、ほぼ間違いなく賠償できるほどの財力はあると見られる。

 しかし、これが神戸山口組の井上邦雄組長になると、支払い能力に疑問符がつく。そうでなくても井上組長はこの使用者責任で自宅まで取られている。競売に掛けられ、今や住む家にさえ不自由するほどだ。こうなると「ない袖は振れない」で、スムーズに裁判は進行できないだろう。

 総体的に暴力団は疲弊している。もちろん山口組の首脳部や司忍組長が出た弘道会の屋台骨は揺らがないと見られる。彼らの財力は地域的に差があり、山口組の他、首都圏の稲川会や住吉会はまだまだ訴訟に太刀打ちできる財力があるだろう。

 だが、それ以外の多くは財力の強さに太鼓判を押せない。1人親方というか、組員がゼロか一人で、後は自分だけが組に所属しているといった情けない組が全国に無数に転がっている。

 これまでの暴力団対策法や暴力団排除条例は明らかに経済的に豊かな組を想定して、施行されている。だが、現状は貧窮な組や組員が続出している。

 現下の「使用者責任」もやはり豊かな組長、組の首脳部という想定に基づいているが、暴力団の現状はごく一部の組を除いて激変している。つまり、これまで有効だった法や条例が暴力団組員にとって過酷すぎるものに変わりつつあるのだ。

 暴力団は好きで不法行為を繰り返しているのだ、それを取り締まる法律や条令が厳しくても不都合はあるまいという意見はあるだろうが、厳しければそれらはスムーズに実行できなくなる。あるいは匿流の激増など、別の面で副作用が想定できる。

 暴力団や組員が完全に壊滅しているなら問題ないが、彼らは未だ少数とはいえ、生きている日本国民である。法が現実無視の条令や施行であってはなるまい。