溝口敦の斬り込み時評 No.534(2026年8月10日)
特殊詐欺で暴力団を捕まえても成果とはいえない。

 TBSニュース(8月5日)などによれば、住吉会系幸平一家幹部・井上敦容疑者(52)ら2人が埼玉県松山市の高齢の女性など3人に親族を装って電話をかけ、800万円近くを騙し取ったとして再逮捕されたという。この事件ではリクルート役の道仁会の組員もすでに逮捕されていて、警視庁と福岡県警は住吉会と道仁会の事務所を家宅捜索したという。

 二つの有力暴力団幹部が特殊詐欺で逮捕されたのが事実だとすれば、これは日本の捜査当局にとって間違いなく慶事だろう。有力暴力団がズバリ特殊詐欺に手を染め、しかも連携さえしていたことが犯罪事実として証明されたはずだからだ。

 しかし、報じられた記事を子細に見てみると、いくつか小首を傾げるような記述が目につく。一方で被害者たちに「親族を装って電話をかけ」とある一方、「井上容疑者は特殊詐欺の受け子グループのトップとみられる」ともある。

 特殊詐欺において「受け子」は直接被害者に接して現金なりキャッシュカードなり各種のギフトカードなりを受け取る役だから、被害者に直接顔をさらす危険を負う。そのため、特殊詐欺グループの外部要員であり、使い捨てされる場合が多々ある。

 そういう「受け子グループのトップ」とは何を意味するのか。特殊詐欺グループの受け子は以前は自前で手当していたのだが、なり手が見つけにくくなり、受け子役をやってくれる人間、つまりバイトを周囲に集めるようになった。そういう「使い捨て要員のトップ」というのが幸平一家の井上容疑者という意味と解するほかにない。

 つまり天下の幸平一家幹部・井上容疑者は特殊詐欺グループに主導的に関係しているのではなく、あくまでも受け子として関係しているだけと見られる。被害者に電話を架けてカネを出すように仕掛けていく架け子は特殊詐欺グループの花形だが、彼は「架け子」ではないと見られる。

 道仁会の組員も「リクルート役」と記され、業務内容がはっきりしないが、これも内部要員ではなく、せいぜいグループの周辺部にいて、受け子などを募集する役なのだろう。

 つまり警察はフィリピンやカンボジア、タイなど海外の捜査機関の協力を得て、特殊詐欺グループの架け子など主要メンバーを逮捕したことはあっても、単独かつ自力だけで特殊詐欺の本拠に王手を掛け、主要メンバーを逮捕したことはないのではないか。逮捕できるのは受け子など使い捨て要員のみ。

 情報面でグループ内部に食い込む捜査手法が切望されるのだが、それがなかなか達せられない。そのくせ重点目標である匿流で成果ゼロは公表しづらく、「やってる感」は出したい。苦肉の策はいつまで続くのか。