441)絆会の直参組長が白昼、銃撃された背景(22年5月23日)

5月10日の昼、三重県伊賀市の森川病院駐車場で、5年前神戸山口組と袂を分かった絆會(旧、任侠山口組、織田絆誠會長)の直参、由仁総業(三重県名張市、組員13名)谷奥由浩組長(54歳)が妊娠7カ月の夫人の診察を待つ間、車の運転席で待機していた。
谷奥組長は窓を開け放ってタバコを吸っていたが、そのとき六代目山口組系一心会傘下三瓶組(水戸市)の組員・清水勇介(26歳)が近づき、直近距離から組長めがけ38口径の拳銃を発射した。
1発目は谷奥組長の太もも、2発目はふくらはぎに当たり、3発目は組長が清水の拳銃に掴みかかったため、清水は発射したものの弾丸は組長の指の間をすり抜け、単に指に切り傷だけを与えた。4発目は組長の右上腕に当たって骨を砕き、拳銃にはまだ弾丸が入っていたと見られるが、清水はそれ以上は撃たず、返り討ちを恐れたのか、その場から脱兎の如く逃げ出した。
おそらく初仕事だったのだろう。清水は近くのパチンコ店に隣接する草むらに帽子や上着を脱ぎ捨て、その様子は防犯カメラにばっちりとらえられた。さらに拳銃も近くの山林に捨てたが、これも三重県警に発見、押収された。三重県警の捜査で清水が浮上し、県警の説得で清水は茨城でも三重でもなく千葉県警に出頭した。
なぜ清水は撃ちやすい組長の頭や上半身を狙わなかったのか。頭部なら間違いなく殺害できる。しかし組員による殺人は無期懲役、殺人未遂なら懲役18年が相場だから、未遂なら45歳ぐらいで出所できる。清水は刑務所で朽ちたくはなかったのだろう。あえて頭部や上半身への発射を避けたと推測できる。
当然、この事件は今年1月、水戸市で起きた三瓶組・神部達也若頭射殺事件への報復として強行された。当時、六代目山口組側は、三瓶組の内紛による殺しと内外に吹聴したが、発生当初に囁かれた三瓶組と絆會との紛争によるものと、今はほぼ断定できる。
茨城県警は今もって水戸事件について詳細を発表せず、犯人の指名手配をしていない。絆會の立場は警察の発表がない以上、うちがやったか肯定も否定もできないというもの。ただ事件が発生した夕方、傘下組織に待機命令を出した。「外出時には防弾チョッキ、防弾カバンを」であり、これはその後4カ月、今に至るまで解除されていない。
絆會の直系組織は茨城県はもとより群馬、埼玉、千葉、東京にも存在する。なぜ水戸市に近いこれらの地域ではなく、三重県の組織を襲ったのか。おそらく清水は絆会ならどこでもいい、警戒の緩いところをと考え、水戸事件とはまるで無関係の由仁総業・谷奥組長を襲ったと見られる。
水戸事件は単独犯による殺人、逃走であり、ヤクザ世界では近来まれに見る鮮やかな手口と評されている。六代目山口組側は絆會を小さく小さく見せたがっているが、両事件を通して絆會の潜行した戦闘力が窺われるのではないか。撃たれた谷奥組長は1日入院しただけで退院、今は平気な顔で歩いているという。

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