413)山口組は弱体化したが弘道会は強化された警察の誤算(21年2月22日)


 今から10年ほど前、当時の安東隆春警察庁長官は「弘道会の弱体化なくして山口組の弱体化はなく、山口組の弱体化なくして暴力団の弱体化はない」と全国警察の本部長を集めた会議で号令した。

 6年前に始まった山口組の分裂抗争はどうやら六代目山口組の優勢が決まり、神戸山口組は遠からず解体の憂き目を見そうである。

 中核組織である山健組が半身不随状態といってよく、かつて「山健組にあらざれば山口組に非ず」とまでいわれた勢威はすでに地に落ちている。もう弘道会に対抗できる力はない、と見なければなるまい。

 六代目山口組とは結局、弘道会の支配であり、神戸の山口組が実質、名古屋の山口組に変質したことを意味する。

 安東元長官が号令した「山口組の弱体化」はここ10年ほどでほぼ達成したといっていい。構成員数を見ても激減している。しかし、本家本元の「弘道会の弱体化」はできていない。むしろ強化されている。

 山口組内部の対抗勢力だった山健組が凋落し、そのメンバーの多くが弘道会ないし六代目山口組に流れたのだから、当然といえば当然である。

 そしてカタギの地場産業や地域の中小企業、商店主などが弘道会に今まで以上に資金を流していることは容易に想像がつく。

 ヤクザを支えるのは組員ばかりでなく、カタギの資本も支える。彼らはどうせカネを出すなら強い組に、その方が効果的だと判断する。強い組、強そうなイメージを持てる組に、草木もなびいていく。

 したがって安藤元長官が弘道会に感じた危機意識はまるで解消されていない。つまり弘道会は警察の顔を立てることをしない。警察や司法に対して、ときに極左が使ったような脅しや盗聴、牽制を仕掛ける。警察の評判を落とすような工作をする——などが警察の警戒を呼んだ。

 こういった弘道会の持つ悪しき体質が山口組全体を汚染し、ゆくゆくは暴力団全体に感染を広げていく。それを事前に阻止しなければならないという危機感が安藤元長官をして弘道会壊滅作戦に踏み切らせた、と見ることができよう。

 しかし、弘道会に今、警察をおちょくるほどの批判精神が残っているかといえば、大いに疑問である。分裂抗争をかいくぐって生き残ったことは間違いないが、いつの間にか反骨的な気風も風化させたと見た方が正確だろう。

 唯一断言できるのは、警察は山口組分裂という絶好の機会を生かせず、弘道会弱体化に有効な手立てを打てなかった。警察はむだ飯を食ったという一事だろう。