395)コロナ禍で暴力団のシノギも壊滅(20年5月18日)


 稲川会が5月、傘下の組員たちに「特殊詐欺への関与は厳禁」とする文書を配った、と朝日新聞が報じた(5月14日、夕刊)。

 文中には、特殊詐欺は落ち度のない高齢者を狙い撃ちする犯罪だとして、「個人的な生活資金を騙し取るもので有って、まことに卑劣」と書かれているという。

 前回のこのコラムで、暴力団組員から批判的な気持ちを込めて「暴力詐欺団」という新語が使われ始めたと伝えた。特殊詐欺はあまりに暴力団らしからぬ犯罪であり、「男」を意識する組員には受け入れがたいシノギだ、と。

 もちろん組の上層部は警戒している。系列組が特殊詐欺を手掛けて組員が逮捕され、裁判段階で「組長の使用者責任」を問われ、上層部が損害賠償を命じられては叶わない。そのため予め「特殊詐欺は組の事業ではない」とアピールしたいのだ、との読みである。

 新型コロナの感染拡大で、一般業界と同様ヤクザ業界も手ひどく傷めつけられた。みかじめ料収益は一貫して急減しているが、今や壊滅に近づいた。地場の飲食店が閉店か、その寸前だから、みかじめ料どころではない。

 堅調なのは覚醒剤や大麻の密売だが、もともと依存症患者を増やし、不幸を広げるシノギだから、男伊達を売る者には、特殊詐欺同様、大手を振れるシノギではない。

 つまり暴力団にふさわしいシノギは壊滅したといって過言ではない。今繁盛している商売はテレワーク関連や宅配業ぐらいだろう。

 宅配はよほど人手不足なのか、しょっちゅう募集を掛けているが、暴力団が宅配に手を伸ばせば、警察は即、潰しにかかる。なるほど宅配は正業だが、とはいえ暴力団の資金源になる恐れがある以上、認めるわけにはいかない、という理屈からである。

 だから暴力団の上層部が組員たちの生活を真に憂えるなら、今、叫ぶべきは「我々に正業を認めよ。額に汗して働く気持ちがある者には仕事を与えよ」になろう。

 組員であっても、いくぶんか見逃されている業界には土建業や解体業、産廃運送、遊技業などがある。組員には生来、労働を嫌う者が多いが、明日喰う米がない状態ではえり好みできない。肉体労働を受け入れる組員が徐々に出てきた。

 警察はこの部分を潰すのではなく、育てるべきだろう。また暴力団首脳部は「特殊詐欺に手を出すな」から一歩進んで、「組員にも正業を。末端組員も国民だ。食わせろ」と叫ぶべきだろう。沈没する船から乗組員たちを救うのが船長のつとめなのだ。それを忘れて、「わしは親分でござい」は滑稽である。