353)蛇の道の行方はヘビに聞かねばわからない(18年6月25日)


 公安調査庁の元調査第二部長をつとめた菅沼光弘氏は80歳になるが、まだ新宿に事務所を設けている。去年訪ねて話を聞いたとき、「暴力団対策法の施行以降、ヤクザは警察との接触を止めた。日本の警察はヤクザについてほとんど分からなくなった」と語っていた。

 菅沼氏は警察の捜査力を落とさないためにもヤクザ、暴力団を全否定してはならないという考えであり、今、同じような考えを持つ高級警察官僚はいるか、と尋ねたところ、「誰もいなくなった」が答えだった。

 しかし、第一線のマル暴刑事の中には今も依然としてヤクザ、暴力団を情報パイプとして維持すべきだという論者がいる。蛇の道はヘビであり、多少癒着の害が生じようと、ヤクザを含む反社勢力の情報を得るためにはヤクザを外せないという意見である。江戸時代の「二足の草鞋」と同じで、博徒やテキヤの親分を取り込んで情報源にし、見返りにお目こぼしもする。

 日本の伝統的な捜査手法といえようが、暴対法はともかく、2010年前後の暴力団排除条例の施行以降、警察は暴力団を徹底的に敵対視し、壊滅することさえ念頭に置き始めた。菅沼氏が言うように、暴力団との融和を考える警察官僚など、今は皆無なのだ。

 ところで山口組は3派に分裂した。3派は生き残りを賭けて、それぞれ抗争構えでいると見るのがふつうだろうが、これをヤクザなりの時代への適応現象、そのためのモデルづくりと見ることはできないか。つまり、どういう形になれば、風当たりを強める警察や社会がヤクザを容認してくれるか、試しに新型をつくったという見本市である。

 六代目山口組(司忍組長)は分裂された側だから、ほとんど現状への危機意識を持たない。わずかに月会費をいくぶん低減し、他団体や一般組員に対する司組長の言動を融和的にした程度だろう。

 神戸山口組(井上邦雄組長)は直系組長たちが納める月会費を大幅に低減し(ただし中心組織の山健組だけは適用外)、終生身分を縛る盃事の無効を宣告し、他団体が捨てた組員は拾わないというギルド的商慣習を破棄した。これにより加盟店は苦しみ、本店だけが儲かるフランチャイズシステムを改めたのだ。

 任侠山口組(織田絆誠代表)はこれをさらに徹底。親子盃を退け、月会費を5万円にまで低減、経済的、時間的に組員に余裕を持たせ、「社会のお役に立つヤクザ」を行動のモットーとした。

 一連の流れを見ると、分裂は社会の容認を求めるヤクザ運動とも見れる。分裂は必ずしも抗争を前提にしていない。