350)暴力団の殺人指令には適用されない司法取引(18年6月4日)


 6月1日から司法取引制度が始まった。刑事事件の容疑者が他人の犯罪を明かせば、見返りに起訴を見送られたり、求刑を軽くしたりできる。

 これで誰もが考えるのは、暴力団抗争で実行犯が敵側の組幹部を射殺した場合、誰に指示・命令されて襲撃したか、自供すれば、刑が軽くなるのでは、ということだろう。

 たとえば16年5月、6代目山口組系弘道会傘下の組員が神戸山口組系池田組の若頭に銃弾3発を浴びせ、殺害する事件が起きた。実行犯は間もなく自首して逮捕され、一審判決は「組織的な動機に基づいた犯行」と認定して、求刑通り無期懲役を判決した。

 実行犯は「個人的な動機でやった。自首したにもかかわらず量刑が高すぎる」と主張し、控訴したが、二審も「組織的な動機とする評価に誤りはない」と、やはり無期懲役を宣告した。

 で、事件はいまだに実行犯だけの単独犯行とされ、六代目山口組系、中でも弘道会系から射殺を指示・命令した者、殺害行為を手伝った者などは誰一人逮捕されていない。

 しかし名古屋の人間が土地勘のない岡山に出かけてヤクザの大幹部を殺すなど、組織的支援なしにできることではない。実行犯が他の者の関与を供述しないだけの話ではないか。

 犯行当時は時期的に適用はムリだったが、今なら司法取引で殺害の指示・命令・支援関係などを供述させられるのではないか、と一応考えられよう。

 ところが、これがムリなのだ。司法取引では死刑または無期の懲役・禁固に当たる犯罪は除外される。身体及び精神的被害を伴う犯罪については、司法取引によって刑の減免を認めることは適当でないという考えからだ。

 おかしな話である。敵側の殺害で一番得をするのは実行犯が所属する系列組織のトップのはずだが、その者は従前通りのうのうとトップの座に居座って、いつ逮捕されるかと不安を感じることもない。

 これが民事裁判なら、組長の使用者責任として、トップが下部の実行行為について損害賠償責任を負うことは、判例として定着している。また刑事でも、たとえばボディガードから拳銃が出た場合、ボディガードによって守られる組長が所持を承知していたに決まっていると、拳銃所持の共謀共同正犯で有罪とされることはほぼ確立している。

 暴力団犯罪では人1人の殺害でも無期懲役を科される。それが刑の相場なのだ。である以上、新設の司法取引は使えず、一番見逃せない殺人教唆や殺人指令が野放しになる。