溝口敦はノンフィクション中心のライターです。手がける分野は主に社会畑ですが、カバー範囲は広く、山口組、ヤクザ、暴力団、組織犯罪集団、外国人マフィア、人物論、新宗教、科学、食品の安全性、性、小説など多岐にわたっています。発表メディアは主に週刊誌、月刊誌、単行本です。


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溝口敦の斬り込み時評(日刊ゲンダイ、毎週月曜連載)

432)ヒットマンの養子縁組で見えてきた射殺事件の真相(21年12月20日)

 2年前、兵庫県尼崎市で神戸山口組幹部の古川恵一古川組総裁に対し、至近距離から自動小銃を連射、冷酷、残忍に射殺した六代目山口組系竹中組(安東美樹組長)の元組員、朝比奈久徳被告の姓がいつの間にか「安東」に変わっていることに気づいた読者は少なくないだろう。

 今年11月末、大阪高裁の控訴審で裁判長は彼の控訴を棄却、一審の無期懲役判決を支持した。おそらく無期懲役のまま彼の刑は確定すると見られるが、竹中組の安東美樹組長が朝比奈被告と養子縁組し、父子関係になったのは拘置所や刑務所での面会や差入れの便宜を考えてのことだ。

 服役中、面会できるのは弁護士か家族だけという規則は結構ハバを利かせている。これをくぐり抜けるために便宜的に養子縁組することはヤクザ世界でしばしば行われている。

 たとえば山健組の若頭だった山本國春(健國会会長、今年4月没)の戸籍上の本名は井上國春といい、やはり服役を考えて神戸山口組・井上邦雄組長と養子縁組していた。

 しかし、安東久徳の場合、尼崎の事件が発生した当初、2018年12月に竹中組を破門されたといわれていた。つまり彼は竹中組の現役組員ではなく、元組員という無資格状態で古川総裁を射殺したという理屈である。

 破門されていたのが事実なら、安東組長の意に添わない不始末をしでかしたはずだが、にもかかわらず、事件後、安東組長は朝比奈を可愛がり、ついには親子の縁さえ結ぶ。親分-子分関係はもともと親子という理屈は成り立つだろうが、だからといって、親分が子分の全員と戸籍上、養子縁組するわけではない。

 つまり結論をいえば、最初から安東久徳の破門は偽装なのだ。破門により組の仕事(ジギリ)ではなく、久徳個人の思いから古川総裁を殺したという言い訳を用意し、竹中組に迷惑を掛けまいとする。そして首尾よく古川総裁を仕留めたのだから、竹中組は六代目山口組の中で面目を施した、「久徳、うい奴」とばかり安東組長の息子にした。

 透けて見えるのは竹中組の全面的バックアップによる古川射殺である。およそ抗争中のヒットマンほど組織的殺人を典型的に行う者はいない。とすれば、組織犯罪処罰法あたりを適用し、組のトップ組長を組織的殺人者としてパクるべきだろう。

 暴対法では抗争に関わる暴力行為を賞揚することを禁じている。違反すれば3年以下の懲役、または250万円以下の罰金だ。養子縁組は最大の「賞揚」ではないか。警察はみえみえのこうした事実をなぜ見逃すのか、不可解である。



<斬り込み時評バックナンバー>

2010年7月7日、野球賭博摘発についての溝口敦のコメント
NHK WORLD ニュースライン(10年7月7日)

2008年7月14日、占い師・細木数子は講談社社長に6億円余の損害賠償を求める裁判について、東京地裁に訴えの取り下げ書を提出した。
講談社と溝口は細木の訴えの取り下げに同意し、次のような和解条項を示して細木と和解した。

講談社は、雑誌出版社として財団法人日本雑誌協会が定める雑誌編集倫理綱領(昭和38年10月16日制定、 平成9年6月18日改訂)に基づき、「雑誌編集者は、完全な言論の自由、表現の自由を有する。この自由は、 われわれの基本的権利として強く維持されなければならない」ことを基本とし、「社会の秩序や道徳を尊重す るとともに、暴力の賛美を否定する」との立場に立ちつつ、「個人及び団体の名誉は、他の基本的人権とひと しく尊重され擁護されるべきものである」ことを自覚し、「真実を正確に伝え、記事に採り上げられた人の名 誉やプライバシーをみだりに損なうような内容であってはならない」ことに留意して、行動していくことを、 ここに表明し、補助参加人(溝口敦)は、同様の指針に沿って、行動していくことを表明する。

2008年3月10日、溝口敦と山口組系山健組組長らは東京地裁で和解した。

・この和解を報じる共同通信の配信記事(08年3月10日)
・東京地裁での和解の概略




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